アラン・チューリングとは

アラン・チューリングは1912年6月23日にロンドン郊外で高級官吏の家庭に生まれ、幼少時から科学や数学に特異な才能を示した。
ケンブリッジ大学のキングス・カレッジで数学を学び、23歳で早くも特別研究員になった。1936年には、大数学者ヒルベルトが、「すべての数学の問題は機械的に論理を進めれば証明できる」と予言したことに疑問を持ち、実際に数学を解く人間の頭脳の論理を真似した想像上の機械「チューリング・マシン」を考え、それでも解けない問題があることを証明した。このマシンはあらゆる論理を真似(ソフトでシミュレーション)することができる万能マシンで、これが現代のコンピューターの基本的な仕組みを決める原型となった。
そしてこのアイデアは、世界最初に作られたとされる米国の電子式計算機ENIACの構想にも先行していた。

彼はその後、米プリンストン大学で博士号を取ってイギリスに戻り、戦争の始まった1939年から、ブレッチリー・パークでドイツの暗号エニグマを解くために働き始める。
そこでは暗号を解くための機械(ボンブ、本作ではクリストファー)を作り、暗号解読のためのさまざまな手法も考案する。
天才肌の一匹狼だったチューリングは仲間と打ち解けず、自分のマグカップが盗まれないよう鎖を付けたり、花粉症の予防にガスマスクを着用したりして変人扱いをされていたが、一方では長距離走でプロ級の記録も出していた。
映画で描かれるさまざまな出来事は、歴史的事実と幾分ずれる脚色もあるが、彼の力でエニグマを解読できるようになり、それによってUボートの攻撃を避けることができ、多くの命が救われ、イギリスは情報戦を通してドイツに勝利することができたのは紛れもない事実だ。

戦後には暗号解読の経験を生かして、電子式のコンピューター(ACE)の開発を始め、現在の人工知能に相当する研究を行った。
そして、人工知能コンピューターが人間とタイプライターを介して会話し、大方の人間が相手を人だと判断したら知能を持っていると考えてもいいという、人工知能評価のための「チューリング・テスト」も考案した。
そうした想いは、1930年に死んだ親友のクリストファーの魂を機械で再現しようとする試みだとも言われている。

彼の研究はコンピューターの基礎ばかりか、人工知能や生命を模倣する人工生命、ゲームや電子音楽、ネットワークやロボットにも及んでいたとされ、現在のコンピューター科学全般の始祖とも言える人だった。
しかし戦時中の秘密を守る英政府の政策で、その業績はずっと正統には評価されず、当時の法律によってゲイであることを断罪され、青酸カリで自殺したとされる。その名誉が回復されたのは、やっと最近になってからだ。
 本作のタイトルでもあるイミテーション・ゲームとは、まさにコンピューターが人間を真似るこのチューリング・テストを行うことを指すが、エニグマを真似て解読するクリストファーの働きや、ゲイであることを隠し、普通人を装って極秘の暗号研究を成し遂げた、彼の人生そのものを指す言葉のようにも思える。

1951年生まれ。朝日新聞社ジャーナリスト学校シニア研究員。1987-89年、MITメディアラボ客員研究員。科学部記者や雑誌編集者などを経て現職。
著書=『人工現実感の世界』(工業調査会)、『人工生命の世界』(オーム社)、『メディアの予言者』(廣済堂出版)など。
訳書=『人工生命』(朝日新聞社)、『デジタル・マクルーハン』『パソコン創世「第3の神話」』『ヴィクトリア朝時代のインターネット』『謎のチェス指し人形「ターク」』、『チューリング――情報時代のパイオニア』(以上、NTT出版)、『テクニウム』(みすず書房)など。

B・ジャック・コープランド 著/服部桂 訳
定価:3,132円(本体:2,900円) ISBN978-4-7571-0344-3
2013年12月5日発売
現代のコンピュータの基本モデルを考案し、ナチスの暗号を打ち破り、人工生命研究の先駆者でもあった天才、アラン・チューリングは、不当な迫害を受け、謎の死を遂げる。その理論の平易な解説も交えて綴る、チューリングの決定版伝記。